Staple核酸を用いた新規核酸医薬技術「RNAハッキング」を開発―mRNAの立体構造制御により高精度な遺伝子発現抑制を実現―
2025.10.28
研究
プレスリリース内容
発表のポイント
- 日本発の独自機序:従来のRNAiやアンチセンス核酸と異なり、生体内酵素に依存せずRNA構造そのものを改変して薬効を発揮。
- 高い標的選択性:薬効発揮に配列選択的結合とrG4構造誘導の二つの要件が必要であるため、オフターゲット由来の副作用リスクを大幅に低減。
- 人工核酸化が容易:薬効を落とさず完全非天然核酸化できるので、高い体内安定性と薬効持続性を両立。
概要説明
熊本大学、弘前大学、名古屋大学、神戸薬科大学および㈱StapleBioを中心とする共同研究グループは、標的mRNAを高精度に認識?結合するStaple(ステープル)核酸*1により、極めて安定なRNA G-quadruplex構造(rG4構造)*2を人為的に誘導し、標的タンパク質の翻訳を強力かつ選択的に抑制する新技術「RNAハッキング(RNAh)*3」を開発しました。
本技術は、従来のRNA干渉(RNAi)やアンチセンス核酸医薬とは異なり、生体内酵素反応に依存せずに薬理効果を発揮するため、化学修飾核酸を自在に適用できます。これにより、生体内でのオフターゲット効果や生体内不安定性などといった従来の核酸医薬が抱えていた課題を克服する革新的な核酸医薬として期待されます。本研究成果は2025年10月15日にNature Biomedical Engineeringに掲載されました(掲載情報は下記参照)。
背景
核酸医薬は疾患原因遺伝子を直接標的とできるため、難治性?希少疾患に対する新しい治療法として注目されています。一方で、既存のRNAiやアンチセンス法にはオフターゲットに伴う副作用リスクや生体内安定性の低さによる薬効持続性の不足などの課題が残されています。研究チームはこれら既存核酸医薬の課題を構造学的アプローチで解決するために、Staple核酸を用いた新しい概念「RNAハッキング」を考案しました。
研究の内容
Staple核酸は、標的mRNA上の離れた二箇所に配列選択的に結合し、標的mRNA上にRNA G-quadruplex(rG4)構造と呼ばれる極めて安定な構造体を人為的に誘導することができます。誘導されたrG4構造は、mRNA上で遺伝子の結び目のように振る舞い、リボソームによるタンパク質合成反応を強力に抑制します。薬効発揮には配列選択的結合とrG4構造誘導の二つの要件が必要であるため、オフターゲット由来の副作用リスクを大幅に低減できます。また、本機構は生体酵素に依存しないため、核酸骨格をDNA?RNA?2’-MOE?L-αTNAに置換しても機能し、完全非天然核酸化による長期安定性の付与が可能です。
主な成果
- in vitro?細胞内での実証:TPM3、MYD88、TRPC6の5’UTRを標的としたStaple核酸が標的部位にrG4構造を誘導し、タンパク質翻訳を抑制。
- AAV6を用いてマウス心臓にRNA型Staple核酸を発現導入すると、心臓でのTRPC6タンパク質発現量が抑制。一方で、TRPC6 mRNA量は低下せず、RNA分解ではなく構造誘導による抑制機序であることを確認。
- 大動脈縮窄(TAC)マウスにおいて、Staple核酸投与群は心肥大の進行抑制、心機能低下の抑止、線維化の軽減を示し、心肥大関連マーカーの発現も抑制。
- L-aTNA製のStaple核酸は心筋内に長期間分布し、単回投与で5週にわたりTRPC6タンパク質発現を抑制。
今後の展開
本技術は標的選択性と化学修飾最適化の自由度を併せ持つ新しい核酸医薬プラットフォームとして、心疾患や種々の希少遺伝性疾患への応用が期待されます。研究グループは創薬スタート?アップ株式会社 StapleBio(2021年11月設立)を基盤に、臨床応用を推進しています。
用語解説
- *1Staple(ステープル)核酸:標的RNAの二つの離れた部位に配列選択的に結合することで、離れて存在するグアニン繰り返し領域を“ホッチキス留め”のように近接化し、rG4構造などを誘起する短鎖核酸。
- *2RNA G-quadruplex(rG4)構造:グアニンが豊富な領域で形成される熱力学的に極めて安定性の高い核酸四重鎖構造。
- *3RNAハッキング(RNAh):短鎖核酸(Staple核酸)で標的RNAの高次構造に人為的に変化を与え、RNA機能を制御する技術。
論文情報
■著者:Yousuke Katsuda*, Takuto Kamura, Tomoki Kida, Rinka Ohno, Shuhei Shiroto, Yua Hasegawa, Kaito Utsumi, Yuki Sakamoto, Shinichiro Nakamura, Taishi Nakamura, Kenichi Tsujita, Yusuke Kitamura, Yukiko Kamiya, Hiroyuki Asanuma, Toshihiro Ihara*, Masaki Hagihara*, and Shin-ichi Sato*
■雑誌名:Nature Biomedical Engineering
■DOI:10.1038/s41551 -025-01515-4
■URL:https://www.nature.com/articles/s41551-025-01515-4
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株式会社StapleBio
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