弘前大学

【プレスリリース】コロナ禍における子どもの抑うつ症状とスマホ所有との経時的な関連性について(保健学研究科/医学部心理支援科学科 )

2021.11.24

本件のポイント
  • 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響が長期化する中で、国内外において長時間のスクリーンタイムが子どものメンタルヘルスに及ぼす影響について、懸念が高まっている。
  • 我々は小学4年生から中学1年生(研究開始時点:2019年9月)に在籍していた児童生徒(N=5204)を対象に縦断的な調査を行い、スクリーンタイムの上昇に最も寄与していると考えられるデバイスであるスマート?フォンの所有と子どもの抑うつ症状との経時的な関連性を調査した。
  • 調査時点は、COVID-19パンデミックの影響のなかった 2019年9月を起点とし、パンデミック下である2020年7月、2020年12月、2021年3月の3時点を含む、合計4時点であった。
  • 解析の結果、研究開始時点においてスマート?フォン所有群と非所有群の間に有意な抑うつ症状の差が見られなかったものの、2020年12月および2021年3月時点において、所有群の抑うつ症状は非所有群に比べて有意に悪かった。
  • これらの結果は小学4 年生でより顕著であり、COVID-19パンデミックによる新しい生活様式において、低年齢層でのスマート?フォン所有がメンタルヘルスのリスク因子となっている可能性について指摘した。
本件の概要

弘前大学の足立匡基准教授?髙橋芳雄准教授(保健学研究科/医学部心理支援科学科)、新川広樹助教(教育学部)、森裕幸特任助手(医学研究科附属子どものこころの発達研究センター)らの研究グループが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック下における子どものスマート?フォン所有?非所有と抑うつ症状の経時的な関係性について検証を行い、COVID-19パンデミック下において、低年齢層でのスマート?フォン所有がメンタルヘルスのリスク因子となっている可能性を指摘した。
COVID-19パンデミックは、世界中のあらゆる場所で青少年の生活に影響を与えているものと考えられる。感染率を下げるための公衆衛生上の予防措置として、学校や公園、スポーツ施設やレクリエーション施設を閉鎖するなどの隔離政策がとられてきたが、これらの影響から、青少年がコミュニケーションや教育のためのツールとしてスマート?フォンやタブレット、PCを使用することを余儀なくされている。COVID-19パンデミック以前においてもスマート?フォンの過剰な使用が青少年のメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことが繰り返し指摘されてきており、パンデミック下においては、より深刻な影響を及ぼしている可能性が推察された。そこで我々の研究グループは、スクリーンタイムの上昇に最も寄与していると考えられるデバイスであるスマート?フォンの所有とパンデミック下における青少年のメンタルヘルスの関係性について精査することを目的として下記の調査を行 った。
調査はCOVID-19パンデミックの影響の無かった2019年9月(Time 0)を起点として、COV ID-19パンデミック下の2020年7月(Time 1)、2020年12月(Time 2)、2021年3月(Time 3)の4時点で行われた。対象者は、Time 0の時点で小学4年生から中学1年生に在籍していた児童生徒とその保護者5204組であり、このうち有効回答が得られたのは4227組(回答率:81.2%)であった。児童生徒本人に対して、Time 0からTime 3の4時点において、それぞれの時点における自身の抑うつ症状得点の評価を求めた。保護者に対してはTime 1の時点で子ども専用のスマート?フォンの所有?非所有について回答を求めた。

解析の結果、所有群の抑うつ症状が研究期間を通して一定水準に維持される一方で、非所有群では抑うつ症状が経時的に改善する傾向が観察され、Time 1,2の時点で両群間の抑うつ症状に有意な差がなかったが、Time 2,3では、所有群の抑うつ症状得点が非所有群に比べて有意に高い、という結果が示された(図1)。この傾向は、我々の調査対象のうち最も低年齢である小学4年生で最も顕著であり、COVID-19パンデミックによる新しい生活様式において、低年齢でのスマート?フォン所有がメンタルヘルスのリスク因子となっている可能性を指摘した。
本研究の限界として、スマート?フォン所有?非所有そのものが抑うつ症状に直接的に影響を与えたか否かは不明である。スマート?フォンを早期に所有すること(保護者が子どもに与えること)と抑うつ症状の増加とに共通する背景要因が働いており、その要因が作用した可能性も否定できない。例えば、先行研究において、保護者のスマート?フォン利用の時間が長い家庭ほど、子どものスマート?フォン所有の時期が早くなり、保護者のスマート?フォン依存傾向が高い場合、その家庭の子は家庭機能の低下から、メンタルヘルスが悪化する傾向にあることが確認されている。このように家庭機能等の背景因子を考慮した場合、メンタルヘルス悪化の予防策として、子どものスマート?フォン利用時間等を制限するだけでは十分でない。このような背景因子の探索的検討は今後の課題である。
この成果は、令和3年11月15日 にSocial Psychiatry and Psychiatric Epidemiologyに『Longitudinal association between smartphone ownership and depression among schoolchildr en under COVID-19 pandemic』として公開されました。 なお、本研究は、一般社団法人日本心理臨床学会2020年度研究助成金「児童思春期のメンタルヘルスの成長曲線に及ぼすCOVID-19パンデミックの影響の検証とエビデンスに基づく多職種連携による地域支援システムの開発」 (課題番号2020(ⅱ)-01)の助成を受けて行われました。
■プレスリリースの詳細はこちら