弘前大学

世界初!免疫機能を付与したミニ腸の開発に成功 – 炎症性腸疾患治療の開発、腸管免疫や腸内細菌分野への応用にも期待 –

2022.06.27

プレスリリース内容

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐 隆)研究所 再生医療センターの阿久津 英憲 部長、東京農業大学食品安全健康学科の岩槻 健 教授、弘前大学大学院医学研究科消化器外科学講座の袴田 健一 教授らの研究グループは、腸管の免疫機能を有する高機能化した「ミニ腸」の開発に世界で初めて成功しました。ヒトiPS 細胞由来の腸管立体臓器「ミニ腸」※1に組織マクロファージ※2を生着させ、生体小腸組織マクロファージとの特性および機能性について検証しました。その結果、ミニ腸内の組織マクロファージは、ヒト小腸組織内のマクロファージがもつ特徴的なタンパク質の発現パターンを示し、大腸菌成分を貪食する機能も有することが認められました。
異物や病原体を認識し、排除する仕組みである自然免疫は、腸管においても大変重要な役割を担っています。病原体を認識?貪食し活性化したマクロファージは、様々なサイトカイン※3を分泌し他の免疫細胞を活性化します。このような自然免疫応答は腸管の恒常性維持に必須であり、私たちの健康維持にも大事な機能です。クローン病と潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(inflammatory bowel diseases:IBD)では、腸管の自然免疫応答の乱れが発症に関係しているとされています。
本研究の成果は、米国消化器病学会の学会誌 J「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology (CMGH)」にオンライン掲載されました。

研究成果のポイント

  • ヒトiPS 細胞から創生した機能性の立体臓器「ミニ腸」にマクロファージを内在化させることに成功した。
  • 炎症性サイトカインの分泌や大腸菌成分の貪食機能も有していた。
  • 腸オルガノイドで免疫系細胞を有するものは報告がなく、試験管内で自然免疫応答を評価できるミニ腸は世界初の成果である。

研究背景

口からつながる消化管は、外来物とふれあう最も重要な体内臓器という位置づけもあり、体内の免疫系の細胞のうち約70%が腸管に存在するとも言われています。自然免疫細胞であるマクロファージは、さまざまなウイルスや細菌感染症に対する生体防御において非常に重要な役割をする一方で、慢性炎症や自己免疫疾患などの病気にも深く関わっています。
最近、ヒトの腸管モデルとして試験管の中で幹細胞から作るミニチュアの臓器で 3 次元化組織(オルガノイド)の研究が世界中で活発に行われています。しかし、自然免疫応答までも観察できるオルガノイドモデルは未だ報告がありませんでした。

研究内容

ヒトiPS 細胞由来の「ミニ腸」は、吸収?分泌、蠕動様運動などのヒト腸管の機能を有する機能的な立体腸管です。ミニ腸を作製する同一のiPS 細胞から単球※4を作製し、ミニ腸内へ移植した後マクロファージへ分化させました。ミニ腸内で正着したマクロファージは、様々なサイトカインなどの生理活性物質を分泌し、大腸菌を貪食する機能性も有していることを示しました。今回の成果は、試験管内でヒト腸管の自然免疫応答も解析できる高機能化したミニ腸の創生により、生体内における腸管免疫応答や炎症性疾患などの病態を再現できる革新的なバイオモデルで、創薬研究開発にも活用が期待されます。

上段:GFP発現iPS細胞由来マクロファージのミニ腸組織内正着。多数のマクロファージ(緑)がミニ腸粘膜下組織に正着し(中図)拡大するとマクロファージ特有の仮足を認める(右図)。下段:マクロファージ内在化ミニ腸の大腸菌貪食能試験(左図)。pHの変化で発色(酸性)する試験系を活用しミニ腸内マクロファージの貪食能を可視化(中?右図)。

今後の展開

本研究では、ミニ腸組織マクロファージが生体の小腸マクロファージと近似した特性を有していることを見いだしました。今後、このミニ腸を小児難治性腸疾患の病態解明や創薬研究に応用していきたいと考えています。炎症性腸疾患と同じく、腸の炎症が長く続く好酸球性消化管疾患 (Eosinophilic Gastrointestinal Disorder: EGID)では、ある種の食物抗原に反応して、炎症がおきることがわかってきました。今回の成果を活用し、生きた腸の中での免疫細胞の詳細な働きを試験管内で観察ができるようになってきました。診断方法の開発、治療法の開発に大きく貢献できます。また、新型コロナウイルスも含め腸管内ウイルス感染症の研究や腸内細菌の研究などにも活用していきます。

【用語解説】

※1 ミニ腸
国立成育医療研究センターの阿久津英憲部長らが 2017年に開発した、ヒトES 細胞や iPS 細胞より創生した小腸の立体臓器モデル。栄養吸収をおこなう粘膜上皮および粘膜下組織、その外側に筋肉や独立した神経系があり、ペプチドホルモンなどを分泌しつつ、自律的に制御、調和しながら動いている。小腸の立体臓器モデルは、他の研究グループでも開発されているが、腸上皮が外側に配向していて、液体培地で培養できるのは、今回用いたミニ腸の大きな特徴である。

※2 マクロファージ
血球に分類される免疫細胞のひとつ。体内に侵入した細菌などの異物を食べる能力に優れており、食べた細菌を消化?殺菌することで、細菌感染を防いでいる。

※3 サイトカイン
細胞同士の情報を伝達し、免疫細胞を活性化させたり抑制したりするはたらきを持ち、免疫機能のバランスを保つための重要な役割を担っている。

※4 単球
白血球の一種で、マクロファージや、樹状細胞に分化することができる。

■ プレスリリースは こちら(673KB)